療養費の支給の抜本的改善が必要
1)橋本利治氏が患者さんとともに行った不支給審査請求
橋本氏と患者さんの協力により取り組んだ不支給の問題点は、患者さんが切実に要望し、医師も治
療の継続に同意しているにもかかわらず、変形徒手矯正術が不支給の取り扱いを受けたのです。
変形徒手矯正術の治療は、毎月の医師の同意が必要だという厚労省通知による取り扱いであり、別の厚労省通知では、同意書の発行には医師の診察が必要であるとのの取り扱いです。
このため、変形徒手矯正術を継続して受けるためには、毎月、医師の同意が必要であり、そのため診察も受けなければならない取り扱いです。一人で行動できない障害者やそのご家族には大きな負担となります。
医学的根拠のない厚労省通知で不支給処分
患者さんは不支給審査会に出席して、自分の病状について発言をしています。
「私は脳性麻痺1級です。生まれつきの障害です。私の右手は麻痺があるためほとんど使えません。
何もしないと右手は固くなってしまって痛くてたまりません。そのため、毎週自宅に来てもらってマッサージを受けています。マッサージを受けたときは、右手が軽くなったような気がします。少しは動くようになります。」
生まれたときより、障害を抱えて懸命に生きる患者さんの発言を聞けば、あん摩マッサージ指圧師の治療を必要とすることは明白です。
この患者さんの変形徒手矯正術の治療継続のため、毎月、医師の診断が必要でしょうか?
患者の診断を行う医師の判断、患者の治療を行うあん摩マッサージ指圧師の判断が尊重されるべきでしょう。
橋本さんは厚生省に対し、変形徒手矯正術の治療には、毎月医師の診断を必要という医学的根拠について情報の開示を請求したのですが、そのような情報はないという回答なのです。
医学的根拠のない厚労省通知により、変形徒手矯正術が不支給にされるという、患者の権利を無視する療養費支給の問題点が明らかにされました。
何よりも通知が大事だという不支給診査
ところが、不支給処分の審査を行う東京都国民健康保険審査会は「審査請求の審査は、保険者が厚労省の指示に従って処分したかどうかを審査するものである」というのです。
通知が何より大事「通知の医学的根拠」や「通知の機械的な適用では患者の医療を受ける権利を妨げる」というような問題は無視する審査でした。
橋本さんは審査会について216号の投稿で次のように言っています。
「封建制の時代、荘園領主が御札書きによって領民に有無を言わせず統治していた時代と何ら変わらないことを思い出させるものでした。
なんら根拠を説明できないにもかかわらず、不支給にしたり、受領委任を認めるがその中身はいつでも拒否でき、償還払いにできる制度であったということです。
そして更には、保険者もこの制度に縛られていてどうしようもないことです。(例外はあるとしても・・・)」
2)清水一雄氏が患者さんとともに行った不支給審査請求
患者さんは脊柱管狭窄症の治療を受けている医師より同意書の提出を受けて、下肢や肩の疼痛や
こりの改善のため清水氏の治療を受けたのです。
令和2年1月7日付の施術者の施術報告書が医師へ提出され、令和2年1月21日医師の同意書では、左右の肩関節および股関節の拘縮、躯幹、上肢、下肢の筋委縮を認め、全身のマッサージ治療、上肢、下肢の変形徒手矯正術の治療の必要な事を示しているのです。
この医師の同意書の提出を受けて行われた治療について、6月になり保険者が筋麻痺、関節拘縮の症状があるかの調査を行い、この保険者の調査に対する医師の回答を根拠に不支給にしたのです。
不支給を作り出すかのような 保険者から医師への問い合わせ
問い合わせ1、関節拘縮についての医学的所見についての問い合わせです。
関節拘縮についての医師からの文書による回答は、「腰部脊柱管狭窄症によるしびれ感、腰治療に
痛、下肢痛を認めます。変形性関節症による両膝、両肩の可動制限は認めるかもしれません。」
これを納得しない保険者が、電話により電話担当者を通じて、「関節拘縮は無い」との医師の回答を
得た、という保険者の見解です。
問い合わせ2、「あん摩マッサージ加療によりみられる治療効果について、医学的に見た先生のご
意見をご教授ください」との問い合わせです。これに対する医師の回答は「不明です。本人曰く、施術により体調の維持を図る目的とのことでした」。
審査会は、上記の保険者の二つの問い合わせに対する医師の回答を勘案すると、患者の症状は関節拘縮に至っていない、と見るのが相当であり不支給との結論です。
都合の悪い情報は一切無視する不支給
問い合わせ1の関節拘縮について、医師が患者を診察し、両膝、両肩の可動制限、関節拘縮を認めている同意書の提出を受け、あん摩マッサージ指圧師の治療が行われたのですが、医師の同意書が無視されています。
また、治療を行っているあん摩マッサージ指圧師が提出している「施術報告書」や「関節可動域測定表」により、関節拘縮の状態が報告されていますが、これまた、理由を示すことなく無視した結論です。問い合わせ2のあん摩マッサージ加療によりみられる治療効果の問題も同様です。
あん摩マッサージ指圧治療は行わない医師に、あん摩マッサージ指圧治療の医学的効果を聞けば、不明と答える場合もあるでしょう。
治療効果は、まず、治療を行っているあん摩マッサージ指圧師に聞くべき問題です。
また、治療効果は、あん摩マッサージ指圧治療をうけている患者さんに聞くべきです。治療の継続を要望し不支給審査請求をしている患者さんの声にきちんと耳を傾けるべきです。
都合の悪い情報はすべて無視し、不支給を作り出すような保険者の調査、見解を審査会も無批判に認めている審査結果です。
3)不支給審査からみえた「あはき」療養費の問題点
二つの不支給診査から「あはき」療養費支給の問題点が改めてあきらかにされました。
憲法が保障する国民の最善の医療を受ける権利、患者の医療選択の権利の尊重という最も重要な問題が無視されており、患者が必要とする医療を受けることができないという問題です。
政府は「あはき」及び「柔整」は、健康保険法第87条に基づく取り扱いとしています。
87条による療養費支給について、厚労省がどのように考えているか「療養の費支給基準」(社会保険
研究所)では次のように言っています。
法は「現金給付である療養費支給はあくまで療養の給付で果たす事の出来ない役割を補完するもので
ある。」「療養費の趣旨は、無医村等で保険医療機関がない場合」、「あるいは保険医がいても、その者が
傷病のために診療に従事することができない場合」やむを得ず保険医以外の医師の診療を受けた
場合、この保険医以外の診療に「柔道整復、あん摩マッサージ指圧師、はり師,きゅう師による施術」がはいるもで、療養費を支給するというのです。
無医村で医療機関が利用できないような場合、あるいは保険医がいても傷病などで診療ができない
場合には、「あはき」や柔道整復の施術を認めるというのです。しかし、戦前や戦後の一時期とは違い
医療機関が充実されてきた今日、無医村のような事態は、ほとんど考えられません。
支給が考えられない87条を「あはき」「柔整」療養費支給の適用として、87条を根拠にした通達が次々に出され、「あはき」療養費支給の規制が強化されています。
厚労省通知、保険発150が平成16年10月1日で廃止されました。
保険発150の次の内容「なお、通知に示された対象疾患について保険医より同意書の交付を受けて施術を受けた場合は、本要件を満たしているものとして療養費の支給対象として差し支えないこと。」
平成9年12月1日出された保険発150通知の一部分、医師の同意書の提出を受けた場合は、療養費支給の要件を満たしている、「あはき」療養費を支給する、という通知が、その後「あはき」療養費の支給増加、健康保険による治療の広がりに一定の役割をはたしました。
厚労省通知保険発150は岸イヨさん鍼灸裁判もその一翼を担いましたが、国民の運動により引き出した通知でした。受領委任による「あはき」療養費削減雄にどう対応するのか、鍼灸裁判も振り返り検討しなければと思います。