鍼灸マッサージ師会の歴史
岸イヨさん鍼灸裁判で明らかにされた医療行政の問題点
岸さん鍼灸裁判は平成3年8月に提訴し10月第1回口頭弁論から始まり、平成9年12月の第20回頭弁論まで、6年間に20回の回頭弁論が行われました。弁護団は、渋川孝夫氏、田島二三夫氏、宮原哲朗氏の3人の弁護士で、弁護団より9回にわたり膨大な陳述書が提出されました。
原告の岸イヨさんはじめ中川節鍼灸師、長田浩一医師、大渕令司氏(厚木市理療師会会長)森秀太郎氏(大阪鍼灸専門学校理事長)沖山明彦氏(東京鉄砲図診療所所長)井上英夫氏(金沢大学法学部教授)、厚生省保険局医療課野口尚氏の8名が証言しました。
原告の証人として7名の方が、鍼灸治療の適応疾患、東洋医療における鍼灸の役割、鍼灸の教育、健康保険取り扱いにおける鍼灸の差別など、鍼灸をめぐるすべての問題を取り上げ、東洋医療排除の医療行政の誤りを指摘する証言を行いました。しかし、これらの証人にたいし被告の国からの反対尋問は一切無く、議論するほど医療行政の問題が明らかになるために、議論を避けていたと思われます。
この裁判の進展のなかで、政府の医療行政の問題点が明確になり、健康保険法についても、療養費支給の通知についても改善の必要性が明確にされました。
特に井上英夫金沢大学教授が陳述書「はり・きゅう治療と療養費支給の可否」において、鍼灸マッサージ療養費支給についての諸通知の誤り、混乱を細部にいたるまで指摘しその改善策を以下のように明らかにしました。
- 医療制度を考えるときもっとも大切な問題は、国民の「健康権」憲法第25条である。国民の「健康権」を保障するために最も大切な問題は、患者の医療選択の権利の尊重である。どのような医療を受けるか患者が選べることが重要である。国民の疾病像が変化し、慢性疾患増加のなかで伝統医療の重要性が増しているにもかかわらず、明治政府の時代から実施された、東洋医療排除の考え方がいまだに残されている。伝統医療を発展させ、国民が選べる医療の内容を豊かにすることが重要である。
- 国民の「健康権」、医療を受ける権利からみると、平等の原理(憲法第14条1項)が重要である。
療養の給付の問題で、西洋医療を受ける患者と東洋医療受ける患者の差別があるだけでない。療養費の支給として東洋医療を受ける場合でも、柔道整復師の治療を受ける患者と鍼灸治療を受ける患者の差別がある。鍼灸治療は差別的な制限を課せられて受診を制限されている。
差別、格差の解消の根本解決は立法による解決しかないが、次善の策は、通達等による療養費支給における柔道整復師と鍼灸師の差別的取り扱いを解消する、すなわち、はり・きゅうについて少なくとも柔道整復並みに療養費支給要件を緩和することである。