鍼灸マッサージ師会の歴史
委任払い拒否の改善の運動 千葉鍼灸裁判
東京都保険鍼灸マッサージ師会は「保険発150号通知」を保険者に徹底する活動に取り組み、不支給を防止しすることにより健康保険による鍼灸師マッサージ治療の普及に取り組みました。保険発150号により療養費の不支給は減り、鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師の療養費申請は増加を始めました。
しかしながら、療養費の不支給が減少したというものの療養費の委任払いを認めない保険者が沢山あるという状況でした。
特に患者数が多く保険治療普及の障害になったのが社会保険事務所の委任払い拒否でした。
この委任払い拒否の問題の解決のため、2000年1月20日(平成12年)全国保鍼連の呼びかけで、125名の鍼灸マッサージ師が、健康保険制度における差別的取り扱いの改善を求めて訴訟を行うことを決めました。
千葉鍼灸裁判の目的
委任払いの拒否という、健康保険における差別的扱いを受けたために生じた損害の賠償を、国及び委任払いを拒否している健康保険組合に求めての訴訟です。東京都保険鍼灸マッサージ師会は、大半の理事が原告として参加し、この訴訟運動の先頭に立ちました。
裁判は、千葉社会保健所事務所、幕張社会保健所事務所、船橋社会保健所事務所など社会保健所事務所の委任払い拒否が問題となっていたため千葉地裁への提訴となりました。社会保険事務所以外では、千葉農協健康保険組合、千葉興業銀行健康保険組合、安田健康保険組合、ブリジストン健康保険組合などの15の健康保険組合および共済組合に対して、国とともに損害賠償の支払いを請求しました。
訴訟の目的について、第1回口頭弁論において原告弁護団の石井正二弁護士は訴状陳述において以下のように述べています。
「本件は、健康保険上の療養費の支給に関し、鍼灸師、マッサージ師らの治療行為を受けた
患者を柔道整復師の治療行為を受けた患者と理由なく差別し、全く同一の規定を根拠にしているにもかかわらず、片や一旦治療費全額の支払いを強要し、片や自己負担の支払いのみで足りるとする不当な扱いを継続してきたことを取り上げたものであります。
このような取扱を自ら推進し、さらに全国の健康保険組合等を指導してきた厚生省と、この指導に無批判に従ってきた健康保険組合18被告に対し、具体的に被害に遭った鍼灸師マッサージ師ら21名、日頃から差別的扱いに苦しんできた鍼灸師マッサージ師ら104名、さらに鍼灸師らによって組織されている団体である全国保険鍼師マッサージ師会、合計126名の原告が、慰謝料と謝罪広告を求めたものであります。
鍼灸師らにたいする保険給付は、柔道整復師の場合と同様、健康保険法44条の2において「療養費の支給」として行われます。この「療養費の支給」は、保険医療機関を通じて行われる「療養の給付」を補完するものとして認められてものです。厚生省は、この「療養費の支給」について、鍼灸師らの治療行為に関しては患者に一旦医療費の支払いをしなければならないとし、その後患者自ら、保険負担分すなわち療養費の支給」分についての償還請求手続きをとらなければならないという、負担が多くかつ迂遠な方法を強要してきました。
ところが、片や全く同じ法を根拠に運営されている柔道整復師の治療行為に関する「療養費の支給」ついては、厚生省は、保険医療機関による「療養の給付」と同様に、自己負担分だけを患者が負担すれば良いとの扱いを推進し、現在に至っているのであります。
つまり、この問題は、立法上の問題ではなく、全く同一の条文を根拠にして運用されている鍼灸師らにたいする「療養費の支給」と柔道整復師に関する「療養費の支給」が、異なる行政指導によって理由なく歪められているということであります。」
石井弁護士の陳述で明らかなように国の行政指導の差別、国の違法行為の改善を求めた裁判でした。裁判を準備した当初より、裁判所も役所の一つであり国に賠償を求める裁判勝利は極めて困難との意見がありました。しかし、国の行政指導の差別、違法の実態を国民に明らかにして改善の道を切り開こうということから訴訟に踏み切りました。